これは誰の馬鹿のアイデアだったかとトレバーは思った。追いかけていた人は思ったよりずっと速かった。トレバーはほとんど足の体操をしていなかったから、長距離競走に全然向いていなくて、直ぐ倒れると感じた。そして雷雨のお陰で歩道は凄く濡れていたから、疲れなくても躓いて落ちる可能性も高かった。所詮苦肉の策で声を上げてお~いと叫んだ。
意外にその策略は成功した。雨着を着ていた人が驚くほど行き成り止まった。一方で、トレバーが躓かないようにじっくり止まろうとしたけど、水溜りに踏んでぎこちなく落ちた。
あの~とぜいぜい言った。それは私の紙だと思いますが。
トレバーが上に向かって、吃驚した。追いかけていた人は女性だった。どうして男だと思ったか分からなかったけど、吃驚した。雨着を着ていたし雷雨の下で全然陽光がなかったから格好見えなかったけど、背の高い女性だった。稲妻が光った時、眼鏡を掛けている無表情の女だと言うことも分かった。
何を言っているとそんな女が薄情な声で言った。これは私の物だよ。
へ~とトレバーは泣きそうな声で自分に言った。そんな。どうしてここまで走ってきたか、阿呆。
馬鹿なことするなとそんな女が言った。これはお前の宿題じゃない。帰れ。
雨着を着ていた女は元の方へ向かった。トレバーが立ち上がって、あの~、僕は宿題とは言わなかったけどと言った。
謎の女はゆっくりと振り返った。真面目な表情が崩壊して、ただの何の迷惑だ、これと言う顔になった。しまったと自分に言った。
それは俺の宿題だとトレバーが叫んだ。返せ。
返せないとそんな女が答えた。
返せ!
返せない!
勿論、この二人は怒って互いに出来るだけ大音声で話し合っていた。しかし、怒らなくても多分叫ぶはずだった。雷はそんなに煩かったから。
それは授業の為の大切な宿題だとトレバーは言った。提出しなくちゃ大きい問題だぞ。
授業は大切じゃないとそんな女が返事した。そんなどうでもいい事を考えてるの。その馬鹿なことよりずっと大事な物だよ。
でも俺が作った作文だ。そして深夜まで無理して書いたもんじゃ。お前が取って行く権利全然ねえ。返せ!
雨着を着ていた女の表情は突然変わって、好奇心が強い顔になった。少しだけニヤニヤして、白い紙を手で上げて、これは本当にどんな物か知らないなと言った。
簡単な質問だったけど、相手の言い方のお陰でトレバーは自信なく俺の作文だけどとしか答えられなかった。
女の顔が無表情に戻った。違うよ。これは。。。
その瞬間、銃声が鳴った。
しまったとそんな女が言った。誰かが銃を何発も撃っていた中にトレバーを肩で掴んで止まった車の後ろに投げてそこで蹲った。見つけられたと急に言った。私と一緒に来るしかない。
ハッとトレバーがオロオロ言った。どうして。
その銃を勝手に撃ってる人に捕まえられて欲しいの。危険すぎる。私を付いていって。
あの~、いつか説明貰えるだろうか。
雨着を着ていた女の顔は迷惑をかけているよと言うのにもう一度変わったけど、時間があったら説明すると返事した。多分お前に知る権利があるだろう。
女は逃げる準備として八方に見ていた。トレバーはもう一つ聞きたいのがあるがと言った。
何。
授業に間に合うと思うか。
もう一回ニヤついた。間に合わないだろうと謎の女は答えた。ボンネットから見て、行こうと言って踏み切った。
走りながら、トレバーが畜生と言った。やっぱり有留先生に打っ飛ばされちゃう。
続きを楽しみにして下さい。