Sunday, September 30, 2007

ところ変われば


授業の初日にも少し話したと思うのだが、私は大学の日本語講師になる前は、日本の企業(半導体製造装置のメーカー)でサラリーマンをしていた。そのサラリーマン生活の最後の2年をアメリカのコネチカット州を基点に過ごした。当時会社が使っていた代理店に席をもらい、彼らのセールス活動のサポートをしていた。その間、アメリカ国内だけでなく、中南米のコスタリカへも出張する機会に恵まれた。コスタリカへは計5ヶ月ほど滞在することになったのだが、今回と次回はそのときの話を少し。

日本のサラリーマンはとても律義である。初めて挨拶させてもらうような場合、それがお世話になるお客さんである場合は必ずお土産を持参する。今後の取引の拡大を目論んでいる相手ならなおさらだ。私は、あれこれ考えたあげく、コスタリカへ和菓子を持っていくことにした。甘いお菓子だし、見た目もきれいだから間違いはなかろうと思ったのだ。部長級の人々には一つずつ、エンジニアや秘書の人たちには「皆さんでどうぞ」という具合にして配った。みんな「ありがとう!」と嬉しそうに受け取ってくれ、私はほっとした。しかしだ。私の思いに反し、お菓子の売れ行きがよくないのだ。あんなに嬉しそうに受け取ってくれたのに、どうしたというのか。一番親しくしていたエンジニアに遠まわしに理由を聞くと、「これ、豆だよな。どうして甘くするんだ?」と言うではないか。小豆(あずき)で作る粒餡(つぶあん)がだめだと言うのだ。コスタリカ人は豆をよく食べる。朝食に豆。昼食に豆。夕食にも勿論豆という感じだ。彼に言わせると、豆はおやつではなくご飯に食べるようなものなので、それを餡(あん)のように甘くするというのは、信じられないということだった。なるほどそういうわけか。確かに、それには一理ある。日本人も、ご飯を甘くしては食べないものな。いい勉強になった。そう思い、その晩彼を少々高いが日本食のレストランへ誘った。

その晩彼と二人、ビールを飲みながら、刺身をつついた。どうやら、刺身は大丈夫のようで、彼はうまいうまいとどんどん食べた。外国人に日本の食べ物をほめられると悪い気はしないものだ。「そうかそうか」と大いに盛り上がった。ふと、コスタリカに来てからずっと気になっていたことを聞こうと思った。「どうしてお前らみんなひげを生やしてるんだ?」今まさにそう聞こうとしたそのとき、彼が聞いた。「お前、どうしてひげ生やしてないの?」言い忘れたが、当時の私はひげを生やしてはいなかった。最近では少し変わってきたようだが、10年前までは、サラリーマンがひげを生やすなどということは許されないという雰囲気が日本にはあったのだ。「日本人はみんなそうなのか?」と畳み掛ける彼に答える前に笑ってしまった。

来週に続く